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書店の新刊コーナーで見つけた群ようこさんの『音の細道』(幻冬舎文庫、2008年)をめくると「サムイ島で吉田拓郎」という見出しが飛び込んできた。なんだこりゃと首をひねり、どんな内容かと見出しを追うと「小唄を習う」、「ビートルズと北島三郎」、「レゲエとご隠居」、「隣のおやじの起床ラッパ」、「津軽三味線はしんしんと」などなど支離滅裂である。それが気に入って買い込み、一気に読み終えた。 群さんは、日本画を描いていながら欧米至上主義者だった父親の影響で、小学生のときからビートルズ、ローリング・ストーンズ、アニマルズなどのロック系にのめり込んでいたという。その後、グループサウンズにのめり、ピンク・フロイド、デビット・ボウイ、ジェフ・ベックなどにかかわった彼女が歌謡曲を馬鹿にしながらも、北島三郎にひかれたり、小唄や三味線にひかれるのを面白く語っている。 それにしても、なぜ吉田拓郎が出てくるのかわからない。群さんと同世代のわたしの妻は吉田拓郎が大嫌いである。何回も離婚したことに対する非難だけでなく、歌詞が理解できないようだ。わたしがギクッとさせられた「青春の詩(うた)」は独りよがりで退屈な歌だと思い込んでいる。歌を聴いてなんで暗くさせられるのと言い放ち、女性にはアイドルだったと思い込んでいたわたしには意外な評価に驚かされた。それが群さんとその友人たちになると別の評価になるのもおかしい。 ところでサムイ島というのはタイにあるそうだ。ハワイで話が始まったからマウイ島と勘違いしていたら気温30度が超えるタイでの話に変わるのに驚いた。そして、友人が持参した拓郎のCDを聴きながら、「青春の詩」、「今日までそして明日から」、「イメージの詩」を持ち出してそれぞれの思いを語り合い、タイのサムイ島には吉田拓郎がよく似合うとしめる。そして拓郎ファンだった友人は南こうせつにころっと鞍替えしたというのもおもしろい。ちょっと長くなるが、さわりの部分を引用したい。 「「ああ それが青春」 という声に、 「青春ねえ」 「遠い昔だわねえ」 「いくつになっても青春、っていってる人がいるよ」 「歳をとったら枯れるのがいちばん」 一同、行き倒れたまま、それぞれの感想を述べた。とにかく何もしたくないので、議論に発展するわけもなく、みないいっぱしなのである。 「わたしは今日まで生きてみました」 といわれれば、 「ご苦労さまです」 「はあ、なかなか辛いことばかりでした」 「これからまだ続きます」 「何か面白いことないかな」 などとぶつくさいい、そしてまた「今日までそして明日から」を聴く。 「これこそはと 信じれるものが この世にあるだろうか」 「イメージの詩(うた)」に変わったとたん、みんなぐっと言葉に詰まった。 「そ、そんな難しいこと、今はわかりましえーん」 「許してくださあい」 「暑いよう」 「うー」 とにかく行き倒れ四人組は、彼の歌声を聴きながら、身じろぎもしなかったのである。 しかし倒れ伏しているうちに、「春だったね」「夏休み」「旅の宿」では唱和するくらいに、少し元気になってきた。タイの島の、湿気があってじれったくなるような暑い気候に、彼の曲はぴったりだった。行ったことはないけれどアメリカ南部とか、ツンドラ地帯にも合いそうだ。あらためて聴くと、どこの土地にもそれなりに合いそうなのは、ちょっとすごいなと再認識した。 (同書149-151ページ) こんな調子で、自分がかかわってきたロックだけでなく、学校の帰りに聞かされた交響曲、サラ金のコマーシャルに使われた歌、隣近所から響いたラッパやピアノ、カラオケ、猫の声などありとあらゆる音を取り上げて笑いで煙に巻く。そんな話の中で思い当たるのは、弾くたびにだんだん下手になるピアノ弾きが登場する「工事の雑音、ピアノの騒音」である。群さんは自分を振り返って、「ひととおおり弾けると、すべてマスターしたと勘違いして、調子に乗ってしまう」という。わたしのギターもそんなところがあってズキッとさせられた。五十肩のせいではなさそうである。 【補記】 吉田拓郎についてはホームページの「フォークのことあれこれ」、「想い出の唄」、「音楽ざっかん」であれこれふれています。 ■「フォークのことあれこれ」は20のテーマで論じています。 http://www5f.biglobe.ne.jp/~nobu-yamada/houkumokuji.html ■「想い出の唄」はフォークに限らない個々の唄の印象記です。 http://www5f.biglobe.ne.jp/~nobu-yamada/utamokuji.html ■「音楽ざっかん」はジャンルにこだわらない音楽への思いです。 http://www5f.biglobe.ne.jp/~nobu-yamada/utazakkimokuji.html |
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